雨と猫~あの日に戻る私~
ここ数日はまるで夏のような暑さだったのに、
今日は冷たい雨の1日だった。
雨の日は、少し物悲しい気持ちにもなるが、嫌いではない。
今年の1月の終わりに、私の38年にも及ぶ猫達との生活が
静かに幕を閉じた。
そんな私にとっての最初の猫がやってきた日も、雨だったからだ。
安心できる場であるはずの家の中は、
常に緊張と得体の知れない恐怖感に 押しつぶされそうな空間だった。
38年前のあの日も、前日の夜から何時間も怒鳴りつけられたあと、
孤独を強いられ、私は一人部屋で息を潜めて小さくなっていた。
どうしてもトイレを我慢できなくなり、
部屋を出て階段を降り、ふと庭をみると、
雨のなか、庭の木の下に赤いリボンを首につけたキジトラの猫が
ポツンと座っていた。
私と目が合うと、にゃぁと小さな声で鳴いたような気がした。
思わず、「おいで」と声をかけると、
黙って私の方に向かって歩いてきた。
戸を開けるとそのまま、すっと家の中に入ってきて、
私はそっと小さな体を抱き上げた。
子猫ではないようだったが、
リボンもしていてどこかで飼われていたのだろう。
とても懐っこくて、そして、とても暖かかった。
なぜか父親が、別に飼ってもいいと言いだし、
その日から16年間、どんな時も私のそばにいてくれた。
そう、どんな時も。
父親から攻撃されていると、
小さな体で彼に飛びかかり、身を挺して私を庇ってくれた。
20代の終わり、突然たった一人で
両親を看なければならない状況に置かれ、
しかも救急車で母親に付き添い向かった病院で、
もう余命わずかと宣告された夜も・・・。
苦労した母親には真実を告げまいと決心し、
夜中に、声をあげて泣きながら
ひとり歩いて帰宅したあの夜も、
玄関でじっと私の帰りを待っていてくれた。
16年間、毎晩、私の布団で一緒に寝てくれた。
娘のような、妹のような、姉のような、
時には母のような存在。
この子がいなければ、私は、今ここにいない。
それほど、常に危機的状況に置かれていた私にとっての、
最後の砦のような存在だった。
この子が私の元に来てくれたことは、本当に奇跡だった。
その日が、雨だった。
だから私は、雨は嫌いにはなれないのだ。
冷たい雨だけれど、あの時の光と暖かさが私の中に戻るから。
私が、あの時の、安心した私に戻れるから。
今私はこうして、
自分のことを
自分の言葉で
安心して語ることができている。
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こころ・ねでは、
対話・呼吸・言葉を通して、
「自分へ戻る時間」を大切にしています。
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